転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


145 日帰りと笑われなかった僕の考え



「ところでルディーン君。今回は何時まで居られるの?」

「お母さんは夜のご飯までには帰ってきなさいって言ってたよ」

 パンケーキの生地を全部焼いて、それをみんなで食べてる時にバーリマンさんからこんな事を聞かれたんだ。

 だから僕はお母さんに言われた事をそのまま伝えたんだけど、そしたら何でかびっくりされちゃった。

「なんと! ルディーン君、今日は館に泊まって行くのではないのか!?」

「うん。僕ならすぐに帰れるでしょ。だから、お泊りはだめだって。」

 それにどうやらロルフさんは僕が泊まって行くと思ってたみたいで、一緒になってびっくりしてるんだよね。

 そう言えば、僕がイーノックカウに来た時はいっつもお泊りしてたもん。そう思われても仕方ないか。

 でもさ、馬車で来た時は帰るのに時間が掛かっちゃうから日帰りなんかできないけど、魔法を使えば一瞬でお家に帰れるんだから、わざわざお泊りする必要は無いと思うんだよね。

「これはまた……。わしはてっきり、ルディーン君は館に泊まって行くものとばかり思っておったのじゃが。そうか、親の許しが出ていないのでは仕方ないのぉ」

「ええ。髪用のポーションを液体にする実験、ルディーン君の鑑定解析をあてにしていただけに、これは困ってしまいましたね」

 バーリマンさんが言うには、何かを混ぜた時にポーションが変な風になって無いかを調べるには錬金術の解析ではあんまり細かい事が解んないらしいんだ。

 だから僕に手伝ってもらおうって思ってたらしいんだけど、お母さんがダメだって言ってるから、そんな事言われてもお泊りはできないんだよね。

「まぁ今回は仕方があるまい。ルディーン君は今日、朝からこのイーノックカウを訪れてくれていたのに、わしが薬局に出かけていたために午前中をつぶしてしまったからのぉ」

「それを言われると、私も薬師ギルドに出かけていましたからね。今回は間が悪かったと言う事であきらめるしか無いでしょう」

 二人とも残念そうではあるんだけど、今日はいろんな事があったから仕方ないねって話で纏まったみたい。

「まぁポーションに何かを混ぜるにしても、それを準備せねばならぬからな。たとえルディーン君が今日泊まれるとしてもあまり多くの実験はできなかったじゃろうて。そう考えれば万全の体勢をとってからルディーン君に手伝ってもらえる日にやった方が効率が良い」

「そうですね。では次にルディーン君が来た時、すぐに鑑定解析をしてもらえるよう、私たちで幾つかサンプルを作っておくとしましょう」

 結局髪の毛つやつやポーションの実験はある程度やっておいて、僕が次来た時にそれを調べるって事で話が纏まりかけたんだ。

 そう、ペソラさんの一言があるまでは。

「そう言えばルディーンさん、さっきポーションを液体にするのは簡単だと思ってたって言ってましたね。あれ? 私の勘違いでした?」  

「ルディーン君が? ペソラ嬢、それはまことか?」

「えっ? ええ、さっきお二人が話してる時に、ストールさんとそんな事を話しているのを聞きましたよ」

 ペソラさんからその話を聞くと、ロルフさんとバーリマンさんはゆっくりとこっちに顔を向けたんだ。

 二人の顔は別に怒ってるとかじゃないんだけど、なんとなく怖かったんだ。

 だから、それを見た僕は慌ててストールさんの方に走っていってその影に隠れた。

 だってロルフさんもストールさんの言う事は聞くみたいだったから、こうすれば安全だって思ったからね。

「旦那様、ギルドマスター。お二人ともルディーン様が怯えているではありませんか。興味がおありになる事に夢中になるのは構いませんが、わたくし、子供を怖がらせるのはどうかと思いますよ」

「あっ、いや。すまんかったのぉ、そのようなつもりはなかったのじゃ」

「わっ私にもそのような意図は無くて……。ごめんなさいね、ルディーン君。怖かった?」

 そしたらストールさんが二人を叱ってくれたんだ。

 おかげで謝ってくれたから、僕は二人を許してあげる事にした。

「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃっただけだから」

 こう言ったら二人共もう一回謝ってくれたから、これで仲直りしたんだ。


「それでじゃ。どうやらルディーン君には髪の毛ポーションを液体にする腹案がるようじゃが、それはどのような物なのじゃ?」

「腹案って何?」

「おお、言い方が不味かったか。何か思いついた事があるのかと言いたかったのじゃ」

「えっと……ロルフさんたちがあんなに考えてたんだもん。僕が考えた事なんてきっと思いついてるよ」

 大人が二人であんなに考えてたんだよ? だからきっと暖めればいいだなんて、絶対思いついてるって思うんだ。

 なのに僕が何かをいい事を思いついたんじゃないかって思ってその話を聞いたら、なんだそんな事かってがっかりされちゃうに決まってるよね。

 だから僕は話す気、無かったんだけど、

「いやいや、こういうポーションの改良のような作業は何がヒントになるか解らぬのじゃよ。じゃから、言うだけ言ってみてはもらえぬか?」

「そうよ、ルディーン君。もしあなたの考えに似た事をすでに私たちが思いついていたとしても、それを聞く事はけして無駄では無いの。ルディーン君の考えと私たちの考えにほんの少しだけでも違いが混じっていたとしたら、それが大きなヒントになる事もあるのだから」

 そっか。僕、何を言ってるんだって怒られちゃうかもって思ってたけど、そんな事は無かったんだね。

「そうですよ、ルディーンさん。言うだけならタダなんですから、言っちゃいましょう。別にそれで誰かが損をするわけじゃないんですから」

「うん、解ったよ」

 それにペソラさんもこう言ってくれたから、僕は自分が考えた事をロルフさんたちに話すことにしたんだ。

「あのねぇ。笑わないで聞いてね」

「うむ。その様な事はけしてせぬから聞かせてくれるかのぉ」

「うん、じゃあ言うね。あのねぇ、髪の毛つやつやポーションの材料になってるセリアナの実の油って34度で溶けるんだ。だからちょっと暖めればいいんじゃないかなぁ? って僕、思ったんだよ」

 ロルフさんが笑わないって言ったから、僕は自分が思いついた事を話したんだ。

 そしたら何でか、ロルフさんが黙っちゃったんだよね。

 それに横で聞いてたバーリマンさんも何も言ってくれないし、やっぱり僕が考えた事なんて聞いても仕方なかったって思っちゃったのかも。

「だから言ったでしょ。僕が考えた事なんてロルフさんたちなら絶対考え……」

「ルディーン君! その話はまことか!?」

 そう思った僕は、やっぱり聞いてもしょうがなかったでしょって言おうとしたんだけど、そしたらその途中でいきなりロルフさんが僕の両肩に手を置いてそんな事を言い出したもんだから、びっくりしちゃった。

「えっと……その事って?」

「じゃから、セリアナの実からとれる油が溶ける温度の事じゃよ。その温度が34度と言うのはまことなのじゃな?」

「うん。鑑定解析でそう出たから間違いないと思うよ」

 でね、それは本当? って聞かれたから本当だよって答えてあげたら、ロルフさんはバーリマンさんのほうを振り返ったんだ。

「ギルマスよ。すぐにポーションを用意せい。ルディーン君が言って言っている事が本当ならば、あのポーションは人の体温でも液体化するという事になる」

「そうですね。その話が本当なら、問題は解決しますわ」

 そして二人はそんな会話をすると、すぐに部屋を飛び出して行っちゃった。

「旦那様もギルドマスターも、お客様であるルディーン様をおいて飛び出してしまうとは。まったく困った物ですわね」

 そしてそんな二人を見送ったストールさんは、呆れたようにこう言ったんだ。

 大丈夫? もしかして二人とも、後で物凄く怒られちゃうんじゃないかなぁ?


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